研究内容

私たちは、「産科におけるケアの質」を包括的に理解し向上させることを目的とした質的研究を行っております。

🧩目的
🧩意義
🧩研究倫理
🧩ケアの質とは
🧩ケアの質改善の歴史
🧩ケアの質の測定方法
🧩産科におけるケアの質

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🧩本研究の目的

日本の産科医療の文化の中で、助産師ら産科医療従事者が、産科におけるケアの質をどのように認識し、臨床実践に取り組むのかを理解することです。

🧩本研究の意義

本研究は、日本の医療従事者の視点から、産科医療に特化したケアの質の理論モデルの開発に貢献することが期待されます。

また、本研究によって、多面的なケアの質について包括的に理解することで、安全対策を超えた産科におけるケアの質の向上に関する将来のガイドラインに貢献することを目指しています。

🧩研究倫理

本研究は、京都大学医学研究科・医学部および医学部付属病院 医の倫理委員会において、研究実施計画書ならびに研究対象者の方への説明・同意文書の適否について、倫理・科学的および妥当性の観点から審査を受け、承認を得ております。また、本研究は、京都大学大学院医学研究科の許可を得て実施されます。

倫理承認番号：R4655-1

🧩ケアの質とは

「ケアの質」研究の歴史は1966年にさかのぼります。ケアの質の定義は、これまで研究者たちが、様々に提唱してきました[1-8]。

Donabedian, A (1980) は、ケアの質を「健康への利益を最大化しつつ、それに伴うリスクを増大させない方法で医療科学技術を応用すること」と定義しました [2] 。

全米医学アカデミー（全米医学研究所: Institute of Medicine (IOM)から2015年に改名））によれば、ケアの質とは「医療の質とは、個人および集団に対する医療サービスが望ましい健康成果の可能性を高め、現在の専門知識と一致している度合い」と定義されています[5]。また、質の高い医療サービスを実現するためには、安全性、有効性、患者中心性、適時性、公平性、効率性の側面を満たしていなければならないと指摘しました[6]。

世界保健機構: World Health Organization (WHO)は、IOMの定義に、統合性の要素を追加し、質の高い保健医療サービスとは、安全性・有効性・患者中心性・適時性・公平性・統合性・効率性の7つの要件を満たすべきであると報告しています[7]。

🧩ケアの質向上の歴史

ケアの質改善への取り組みについては、1980年頃にケアの質と患者安全の仕組みづくりに研究の重点が置かれるようになりました[9]。1990年代から2015年頃まで、主に低・中所得国の医療サービスへのアクセスや医療の安全性の確保に研究の重点が置かれ [10,11] 、医療専門家の育成および技術と管理能力の向上が図られてきました [12] 。

2007年頃からは「患者中心のケア」の重要性が謳われ始めました [13] 。2015年には「全ての人が、それぞれの好みに応え、ニーズに合わせて調整され、安全で、効果的で、迅速で、効率的で、許容できる品質の保健医療サービスにアクセスできる」ことを目指す、保健医療サービスの管理提供方法における新たなビジョンがWHOによって提唱されました [14] 。

今日では、真に患者中心のケアとは何か、安全性の確保のみならず文化的価値観を尊重したケアとはいかにあるべきか、さらなる探究が求められています。

🧩ケアの質の測定方法

ケアの質は、1970年代頃から今日に至るまで、「看護師が報告するケアの質：自施設のケアの質は高いと思うか低いと思うか」や、「患者が報告するケアの質：あなたの受けたケアの質は高いと思うか低いと思うか、他人に勧めたいと思うか」という問いで世界的に研究されてきました[15-17]。

また、Donabedian, A. が提唱したケアの質測定の枠組み[1]に基づき、経済協力開発機構：Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD)加盟国では、医療安全の側面から、死亡率や再入院率といった安全性を示す指標によってケアの質が評価されています[18]。

しかしながら、ケアの質の定義を鑑みるに、これらの測定方法はケアの質を包括的に評価しているとは言えません[12]。ケアの質を包括的に測定する方法については、国内外を問わず、さらなる議論の余地があります。

🧩産科におけるケアの質

産科領域において、ケアの質は1990年ごろから議論されてきました[19]。産科領域においても、ケアの質は、安全性の確保に研究の重点が置かれてきた歴史的経緯があります[20]。「患者中心のケア」の世界的な議論の影響を受けて、産科領域においては、生き延びることが出産のゴールではないことがWHOによって指摘されました[21]。

これまでに、多くの先行研究で、産科におけるケアの質の定義がさまざまに探究されてきました[19, 22-26]。

Hulton, L. (2000) は、Donabedian, A. (1988) が提唱するケアの質の定義に母子保健の文脈を取り入れ、産科におけるケアの質は無形の概念であり測定が非常に難しいと言及しました。また、産科において質の高いケアとは、Pittrof, R. (2002) によれば、すべての妊婦と新生児に求められる最小限のケアを提供し、さらに、対象者によってはより高度なケアを提供することと提唱されました [19] 。Raven, J.H. (2012) は、産科におけるケアの質について、普遍的に受け入れられている定義は存在しないと結論付けました。

このように、「産科におけるケアの質」の定義をめぐる議論には、未だ発展途上の段階にあります。

研究者はこれまでの研究で、「産科におけるケアの質」を扱う先行研究の多くでは、ケアの質の定義に研究毎に著しいゆらぎがあることを特定しました。 そこで本研究では、このゆらぎが臨床産科医療の現場に与える影響に着目します。具体的には、産科の医療従事者の方々が、産科におけるケアの質についてどのように考え、感じ、取り組んでいるのか理解することで、この課題に対処していきます。

🧩引用文献